大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)5275号 判決

原告

金森貞夫

被告

北田栄子

ほか二名

主文

一  被告北田栄子及び被告古川喜八郎は、原告に対し、各自金二九六二万〇三四七円及び内金二七六二万〇三四七円に対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告山武郡市農業協同組合は、原告の被告北田栄子及び被告古川喜八郎に対する判決が確定したときは、原告に対し、金二九六二万〇三四七円及び内金二七六二万〇三四七円に対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告北田栄子及び被告古川喜八郎は、原告に対し、各自金一億六四四五万〇〇五七円及び内金一億五四四五万〇〇五七円に対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告山武郡市農業協同組合は、原告の被告北田栄子及び被告古川喜八郎に対する判決が確定したときは、原告に対し、金一億六四四五万〇〇五七円及び内金一億五四四五万〇〇五七円に対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いがない事実及び容易に認められる事実

1  原告は、自動二輪車(以下「原告車」という。)を運転中、平成元年四月一四日午前五時二〇分ころ、千葉県山武郡山武町雨坪五一番地の二先路上において、右折しつつ自宅から道路に出た、被告北田栄子が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)の右前部と衝突し、転倒した(以下「本件交通事故」という。)。

2  原告は、本件交通事故により、左大腿骨骨折(骨幹部、頚部。粉砕型)・左下腿骨開放性粉砕骨折・左足関節開放性骨折等の傷害を負つた。

そのため、原告は、平成元年四月一四日(本件交通事故日)から平成六年三月七日(症状固定日)までの一七八九日間のうち、二七四日間入院し、八三日間通院(実通院日数)した。

(以上は、甲第三号証、第四号証により認められる。)

3  原告は、本件交通事故により、左下肢が右下肢より七・五センチメートル短縮したため靴装具を使用しなければならず、また、左足関節は拘縮しているので、その運動可能領域は、底屈が一〇度、背屈が一〇度(右足関節の運動可能領域は、底屈が四〇度、背屈が二〇度である。)となつている(なお、足趾は、拘縮はないが、背屈はできない。)。そのため、跛行があり、歩行の際、杖を使わなければならない。

さらに、左下腿骨開放性粉砕骨折の治療のため骨盤骨の一部を移植し、その結果、骨盤骨に変形が生じた。

(以上は、甲第四号証、原告の平成八年三月一一日付け本人調書一二項から一六項まで、弁論の全趣旨により認められる。)

4  前記3の後遺障害は、後遺障害等級事前認定において、一下肢を五センチメートル以上短縮したもの(第八級五号)、一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい傷害を残すもの(第一〇級一一号)、鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい奇形を残すもの(第一二級五号)に当たるとされ、併合第七級とされた。

5(一)  被告北田栄子は、自宅から道路に出る際、右方向の確認をすべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然と自宅から道路に出た過失により本件交通事故を起こした。したがつて、被告北田栄子は、民法七〇九条に基づき、本件交通事故による損害賠償責任を負う。

(二)  被告古川喜八郎は、被告車の所有者である。したがつて、被告古川喜八郎は、自動車損害賠償補償法三条本文に基づき、本件交通事故による損害賠償責任を負う。

(三)  被告山武郡市農業協同組合は、被告古川喜八郎と自動車保険契約を締結した。したがつて、被告山武郡市農業協同組合は、原告の、被保険者である被告北田栄子及び被告古川喜八郎に対する本件判決が確定したときに、本件交通事故に係る保険金を支払うべき責任を負う(弁論の全趣旨)。

6  損害のうち、治療費は一五六〇万九八八五円、看護料は八一万七七七二円、装具費は四〇万六五三九円である。

また、損害の既払金は五一八三万五五六六円である。

二  争点

争点は、〈1〉過失相殺の割合、〈2〉損害(ただし、治療費、看護料、装具費を除く。)である。

1  原告の主張

(一) 過失相殺について

原告は、東金方面から日向方面に向け時速四〇キロメートルで原告車を走行していたところ、被告車が右折しつつ自宅から道路に突然出てきたため避けることができず、原告車は被告車と衝突した。そして、被告北田栄子は、右折の際、右方向(原告車が走行して来る方向)の確認を怠つている。したがつて、原告には過失がないか、仮にあつたとしても五パーセントの過失があるにすぎない。

(二) 損害について

(1) 入院雑費 三五万六二〇〇円

入院雑費は、一日当たり一三〇〇円であり、入院期間が二七四日間であるから、三五万六二〇〇円となる。

(2) 休業損害 六七二三万五九八七円

ア〈1〉 原告の一日当たりの収入は、原告の昭和六三年分(本件交通事故の前年)の、所得金額八五五万三五四〇円、青色申告控除額一〇万円、固定経費(合計六三三万〇七一二円。なお、内訳は、減価償却費が一二二万六三〇二円、地代家賃が二四八万四五〇〇円、損害保険料が一七万二五一〇円、リース代金が二四四万七四〇〇円である。)の八四パーセント(原告の寄与率)に相当する五〇六万四五六九円の合計額を三六五日で除した数字である。

すなわち、原告の一日当たりの収入は、次の数式のとおり、三万七五八三円である。

(8,553,540+100,000+5,064,569)÷365=37,583

〈2〉 ところで、休業損害の算定の際、固定経費の原告の寄与率に相当する金額を収入に加算するのは、原告が就労できないことにより固定経費が収益獲得のために完全には費消されていないからである。

そして、原告の寄与率は、原告の昭和六三年分の、所得金額八五五万三五四〇円、青色申告控除額一〇万円、専従者給与一六四万円に基づき、次の数式のとおり、八四パーセントとなる。

(8,553,540+100,000)÷(8,553,540+100,000+1,640,000)=0.84

イ 原告は、平成元年四月一四日(本件交通事故日)から平成六年三月七日(症状固定日)までの一七八九日間、全く就労できなかつた。すなわち、休業期間は、一七八九日である。

ウ したがつて、休業損害は、三万七五八三円に一七八九日を乗じた六七二三万五九八七円である。

(3) 入通院慰謝料 四八三万円

入通院慰謝料は、入院九箇月につき二七〇万円、通院五〇箇月につき二一三万円の合計四八三万円である。

(4) 逸失利益 一億〇六〇二万九二四〇円

原告の収入は一日当たり三万七五八三円(前記(2))であるから、年収は、三万七五八三円に三六五日を乗じた一三七一万七七九五円である。

また、原告の後遺障害は、左下肢が右下肢より七・五センチメートル短縮したことが第八級五号(一下肢を五センチメートル以上短縮したもの)、左足関節は拘縮したことが第八級七号(一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの)に当たるから、併合第六級となる。そのため、労働能力喪失率は六七パーセントである。

そして、原告は昭和一七年一一月二五日生まれであるから平成六年三月七日(症状固定日。前記第二の一2)当時は五一歳である。そのため、六七歳までの一六年に相当する新ホフマン係数は一一・五三六三となる。

したがつて、原告の逸失利益は、次の数式のとおり、一億〇六〇二万九二四〇円である。

13,717,795×0.67×11.5363=106,029,240

(5) 後遺症慰謝料 一一〇〇万円

後遺障害第六級(前記(4)参照)に基づく慰謝料である。

(6) 弁護士費用 一〇〇〇万円

2  被告らの主張

(一) 過失相殺について

本件交通事故は、徐行して右折しつつ自宅から道路に出た被告車と、被告車の右方向から走行してきた原告車が衝突したものである。したがつて、原告には一〇パーセントの過失があるから、この分につき過失相殺すべきである。

(二) 損害について

(1) 入院雑費

争う。

(2) 休業損害

原告は、同人の妻の外に従業員を雇用しており、本件交通事故後も事業を継続しているから、原告の一日当たりの収入を算出する際に固定経費を加算するのは失当である。すなわち、原告の昭和六三年分の所得金額八五五万三五四〇円に基づき、原告の収入を算出すべきである。

また、原告が通院期間中受けていた診療は、ほとんどが投薬又は検査である上に、その回数が少ないことからすれば、通院した日が全日につき就労できなかつたとはいえない。すなわち、通院期間中の一日当たりの休業損害は、入院期間中の一日当たりの休業損害の五〇パーセントを上回ることはない。

(3) 入通院慰謝料

通院中の診療のほとんどが、投薬又は検査といつた骨髄炎の経過観察のためのものであるから、精神的苦痛はさほど大きくなく、したがつて、原告主張の入通院慰謝料は高額すぎる。

(4) 逸失利益

原告の後遺障害は、一下肢を五センチメートル以上短縮したもの(第八級五号)、一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい傷害を残すもの(第一〇級一一号)、鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい奇形を残すもの(第一二級五号)に当たり、併合第七級である。すなわち、左足関節の拘縮は、一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの(第八級七号)には当たらない。

また、原告の職種、年齢等を総合的に考慮すると、原告の労働能力喪失率は四〇パーセントを上回ることはない。

(5) 後遺症慰謝料

原告主張の後遺症慰謝料は高額すぎる。

(6) 弁護士費用

争う。

第三当裁判所の判断

一  過失相殺について

1  本件交通事故の状況は別紙事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱのとおりである(甲第二号証、乙第一号証の一ないし九、被告北田栄子の本人調書)。

ところが、原告は、別紙事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱに記載された原告車の位置よりも道路中央寄りを走行していた旨供述する(原告の平成八年六月三日付け本人調書二項・四項・五項・七項)。しかしながら、原告車の走行した具体的位置が、原告の供述からは明らかでない(原告の平成八年六月三日付け本人調書二項・七項)上に、別紙事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱで衝突地点とされている場所には車の破片が存在した(被告北田栄子の本人調書七項)から衝突地点に関する別紙事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱの記載は信用でき、それゆえ、別紙事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱの衝突地点よりも道路中央寄りを原告車が走行していたとは考えにくいこと、原告が衝突の瞬間に右側にハンドルを切つた(甲第一六号証三項、原告の平成八年六月三日付け本人調書四項)から、原告車が、別紙事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱ記載の衝突地点よりも路肩寄りを走行していたと推認できることを併せ考えると、原告車が、別紙事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱに記載された原告車の位置よりも道路中央寄りを走行していた旨の原告の供述は採用できない。

したがつて、被告車が、別紙事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱ記載の衝突地点よりも道路中央寄りの地点まで出てきて、そこで本件交通事故が起きたとは認められない。

2  ところで、被告車の右方向が垣根で見通しが悪い(甲第二号証、第一六号証二項、乙第一号証の一ないし九、被告北田栄子の本人調書一項・四項・五項)上に、自宅から道路に出る際に被告車の対面にあつたカーブミラーが、本件交通事故当時、朝露でぬれて見えなかつた(乙第一号証の一ないし九、被告北田栄子の本人調書二項・三項)にもかかわらず、被告北田栄子は、右方向(原告車が走行して来る方向)の確認を十分せずに自宅から道路に出たという過失がある(甲第二号証、第一六号証三項、乙第一号証の一、原告の平成八年六月三日付け本人調書四項)。

なお、被告北田栄子は、自宅から道路に出る際に一時停止したが、垣根のため右方向が見えないので右方向を確認しながら少しずつ前に出て、ボンネツトが出たところで衝突したと供述する(同人の本人調書五項)が、同人が立ち会つて作成された別紙事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱ(被告北田栄子の本人調書七項)によると、被告車が、原告車を確認し得るU字溝の設置場所を越えて更に道路に進入した地点で衝突していることが認められるから、被告北田栄子は、右方向(原告車が走行して来る方向)の確認を十分せずに自宅から道路に出ていると推認できるのであつて、自宅から道路に出る際に一時停止したが、垣根のため右方向が見えないので右方向を確認しながら少しずつ前に出て、ボンネツトが出たところで衝突したとの被告北田栄子の供述は採用できない。

3  一方、原告は、朝刊の配達を終えて店に帰る途中で本件交通事故に遭つたこと(甲第一六号証二項、原告の平成八年六月三日付け本人調書五項)から本件交通事故の現場を何度か通行していたものと推認でき、したがつて、車両が被告の自宅から道路に出てくることを予見し得たところ、原告車の進行方向の左側が垣根で見通しが悪く、原告車の右前方にあつたカーブミラーが、本件交通事故当時、朝露でぬれて見えなかつたことは、被告北田栄子の場合(前記2)と同様であるから、原告には、進行方向左側から車両の進入を注意すべき義務を怠つた過失がある。

なお、原告車が、制限速度を超えて走行していたことを認めるに足る証拠はない。

4  以上1から3までの事情を考慮すると、原告には五パーセントの過失があると認められる。

二  損害について

1  入院雑費 三二万八八〇〇円

入院雑費は、一日当たり一二〇〇円が相当であり、入院期間が二七四日である(前記第二の一2)から、三二万八八〇〇円である。

2  休業損害 二〇三五万二八六一円

(一) 原告は、固定経費のうち原告の寄与率(八四パーセント)を、休業損害算定の際、収入に加算すべき旨を主張する(前記第二の二1(二)(2))が、次に述べるとおり失当である。

すなわち、固定経費(減価償却費、地代家賃、損害保険料、リース代金)は、一営業年度に対応するものであつて、労務の提供に対応するものでないから、固定経費のうちに寄与率なるものを想定できるか疑問がある。

さらに、本件において、原告が入通院していた期間中、新聞販売店の業務が停止しておらず、かつまた、建物又は機械の一部が使えなかつたことはなかつた(甲第八号証から第一五号証まで、証人金森道子の証人調書六項から八項まで、原告の平成八年三月一一日付け本人調書一八項・一九項・三三項)であるから、原告が就労できないことにより、固定経費が収益獲得のために完全には費消されていなかつたとは認められない。

したがつて、本件において、休業損害算定の際、固定経費のうち原告の寄与率を算出し、その額を収入に加算すべきではない。

(二)(1) そして、企業主が生命又は身体を侵害されたため企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる財産上の損害額は、特段の事情のない限り、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算定すべきである(最高裁昭和四三年八月二日第二小法廷判決・民集二二巻八号一五二五頁)。

しかしながら、本件訴訟で提出された証拠では、本件交通事故後である平成元年分ないし平成五年分の所得金額が、本件交通事故前である昭和六三年分の所得金額より減少しており(甲第五号証の三、第八号証から第一二号証まで)本件交通事故による財産上の損害の発生は認められるが、企業収益中に占める原告の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合を認定できない。

したがつて、原告の個人的寄与に基づく収益は賃金センサスに基づかざるを得ない。

そして、賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者の全年齢平均の年収額は、平成元年が四七九万五三〇〇円(一日当たり一万三一三七円)、平成二年が五〇六万八六〇〇円(一日当たり一万三八八六円)、平成三年が五三三万六一〇〇円(一日当たり一万四六一九円)、平成四年が五四四万一四〇〇円(一日当たり一万四八六七円)、平成五年が五四九万一六〇〇円(一日当たり一万五〇四五円)、平成六年が五五七万二八〇〇円(一日当たり一万五二六七円)であるから、この金額をもつて原告の個人的寄与に基づく収益とすべきである。

(2)ア 平成元年四月一四日(本件交通事故日)から同年一二月三一日まで(二六二日間)、平成二年一月一日から同年四月三〇日まで(一二〇日間)

原告は、この間、労務を全く提供していない(甲第一三号証四項、原告の平成八年三月一一日付け本人調書九項・一〇項)から、完全に休業したといえる。

したがつて、この間の休業損害は、次の数式のとおり、五一〇万八二一四円である(なお、収入の根拠は前記(1)のとおりである。)。

13,137×262+13,886×120=5,108,214

イ 平成二年五月一日から同年一二月三一日まで(二四五日間)

原告は、この間、二四日入院(左アキレス腱延長手術等のため)、七日通院した(甲第三号証)。

ところで、原告が、店に出るようになつたのが平成二年五月ころからである(原告の平成八年三月一一日付け本人調書一〇項)ところ、店に出るのと出ないのとでは従業員の士気が違うこと(原告の平成八年三月一一日付け本人調書一一項)からすれば、原告は、右のころから、配達・集金等はしないが、従業員等を管理・指導するという労務を提供することにより収益を獲得していたと推認できる。

そして、原告の労務の提供は、原告の入通院日数、原告の平成二年分の所得金額が四四五万五三六九円(青色申告控除前の所得金額。以下、平成三年分から平成五年分の所得金額も同様)であること(甲第九号証)を併せ考えると、本件交通事故前の一〇パーセント(入院の際は〇パーセント、通院の際は五パーセント)にとどまるとするのが相当である。

したがつて、この間の休業損害は、次の数式のとおり、三一〇万〇〇四八円である。

13,886×(1-0.1)×(245-24-7)+13,886×24+13,886×(1-0.05)×7=3,100,048

ウ 平成三年一月一日から同年一二月三一日まで(三六五日間)

原告は、この間、五〇日入院(左下腿骨骨髄炎手術等のため)、一〇日通院した(甲第三号証)。

原告の労務の提供は、原告の入通院日数、原告の平成三年分の所得金額が五五三万四三八九円であること(甲第一〇号証)を併せ考えると、本件交通事故前の二〇パーセント(入院の際は〇パーセント、通院の際は一五パーセント)にとどまるとするのが相当である。

したがつて、この間の休業損害は、次の数式のとおり、四四二万二二四七円である。

14,619×(1-0.2)×(365-50-10)+14,619×50+14,619×(1-0.15)×10=4,422,247

エ 平成四年一月一日から同年一二月三一日まで(三六六日間)

原告は、この間、一九日通院した(甲第三号証)。

原告の労務の提供は、原告の通院日数、原告の平成四年分の所得金額が七八五万八五八一円であること(甲第一一号証)を併せ考えると、本件交通事故前の三〇パーセント(通院の際は二五パーセント)にとどまるとするのが相当である。

したがつて、この間の休業損害は、次の数式のとおり、三八二万三〇四八円である。

14,867×(1-0.3)×(366-19)+14,867×(1-0.25)×19=3,823,048

オ 平成五年一月一日から同年一二月三一日まで(三六五日間)

原告は、この間、一一日通院した(甲第三号証)。

原告の労務の提供は、原告の通院日数、本件交通事故からの時の経過、原告の平成五年分の所得金額が六九四万一一三七円であること(甲第一二号証)を併せ考えると、本件交通事故前の四〇パーセント(通院の際は三五パーセント)にとどまるとするのが相当である。

したがって、この間の休業損害は、次の数式のとおり、三三〇万三一二九円である。

15,045×(1-0.4)×(365-11)+15,045×(1-0.35)×11=3,303,129

カ 平成六年一月一日から同年三月六日(症状固定日の前日。前記第二の一2参照)まで(六五日間)

原告は、一日通院した(甲第三号証)。

原告の労務の提供は、原告の通院日数、本件交通事故からの時の経過を併せ考えると、本件交通事故前の四〇パーセント(通院の際は三五パーセント)にとどまるとするのが相当である。

したがつて、この間の休業損害は、次の数式のとおり、五九万六一七五円である。

15,267×(1-0.4)×(65-1)+15,267×(1-0.35)×1=596,175

(3) 以上のことからすると、平成元年四月一四日(本件交通事故日)から平成六年三月六日(症状固定日の前日。前記第二の一2参照)までの休業損害は、前記(2)アからカまでの合計額二〇三五万二八六一円である。

3  入通院慰謝料 三〇〇万円

原告が、平成元年四月一四日(本件交通事故日)から平成六年三月七日(症状固定日)までの一七八九日間のうち、二七四日間入院し、八三日間通院(実通院日数)したこと(前記第二の一2)からすると、入通院慰謝料は三〇〇万円が相当である。

4  逸失利益 三三八二万一九四七円

(一) 原告の平成六年三月七日(症状固定日。前記第二の一2)における年収額は、五五七万二八〇〇円である(前記2(二)(1)の平成六年賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者の全年齢平均の年収額。なお、賃金センサスによることは同所で述べたとおりである。)。

(二) また、原告の後遺障害は、左下肢が右下肢より七・五センチメートル短縮したため靴装具を使用しなければならないこと、また、左足関節は拘縮しているので、その運動可能領域が、底屈が一〇度、背屈が一〇度(右足関節の運動可能領域は、底屈が四〇度、背屈が二〇度である。)となつていること(なお、足趾は、拘縮はないが、背屈はできない。)から、跛行があり、歩行の際、杖を使わなければならず、さらに、左下腿骨開放性粉砕骨折の治療のため骨盤骨の一部を移植し、その結果、骨盤骨に変形が生じたというものである(前記第二の一3)。

なるほど、左下腿骨開放性粉砕骨折の治療のため骨盤骨の一部を移植したため骨盤骨に変形が生じたことで労働能力の喪失が生じるとは考えにくい。しかしながら、左下肢が右下肢より七・五センチメートル短縮したため靴装具を使用しなければならないこと、また、左足関節は拘縮しているので、その運動可能領域が、底屈が一〇度、背屈が一〇度(右足関節の運動可能領域は、底屈が四〇度、背屈が二〇度である。)となつていること(なお、足趾は、拘縮はないが、背屈はできない。)から、跛行があり、歩行の際、杖を使わなければならないという原告の後遺障害により新聞販売店の業務のうち新聞の配達・集金といつた外勤の仕事(甲一三号証二項・三項、第一四号証二項・四項から六項まで、証人金森道子の証人調書七項、原告の平成八年三月一一日付け本人調書六項・七項)が制限されることになり(原告の平成八年三月一一日付け本人調書一一項)、したがつて、原告の労働能力の一部喪失があると考えられる。そして、これらの状況を考慮すると、原告の労働能力喪失率は五六パーセントとするのが相当である(原告の労働能力喪失率がこれと異なることを窺わせる証拠はない。)。

なお、原告は、左足関節は拘縮したことが、一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの(第八級七号)に該当することを前提として、労働能力喪失率を六七パーセントであると主張する(前記第二の二1(二)(4))が、左足関節の運動可能領域は、底屈が一〇度、背屈が一〇度(右足関節の運動可能領域は、底屈が四〇度、背屈が二〇度である。)となつている(前記第二の一3)から、左足関節は一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの(第八級七号)に該当せず、原告の右主張は前提を誤つたもので失当である。

(三) そして、原告は、昭和一七年一一月二五日生まれである(甲第一号証、第三号証、第四号証、第五号証の一、第八号証から第一二号証まで)から、平成六年三月七日(症状固定日。前記第二の一2)において五一歳である。それゆえ、五一歳から六七歳までの一六年に相当するライプニツツ係数は一〇・八三七七である。

(四) したがつて、原告の逸失利益は、次の数式のとおり、三三八二万一九四七円となる。

5,572,800×0.56×10.8377=33,821,947

5  後遺症慰謝料 九三〇万円

原告の後遺障害(前記第二の一3・4)からすると、後遺症慰謝料は九三〇万円が相当である。

6  合計 二七六二万〇三四七円

以上、前記1から5までで認定した金額と、治療費が一五六〇万九八八五円、看護料が八一万七七七二円、装具費が四〇万六五三九円、損害の既払金が五一八三万五五六六円であること(前記第二の一6)、原告の過失相殺割合が五パーセントであること(前記一)からすると、合計は、次の数式のとおり、二七六二万〇三四七円となる。

(328,800+20,352,861+3,000,000+33,821,947+9,300,000+15,609,885+817,772+406,539)×(1-0.05)-51,835,566=27,620,347

7  弁護士費用

本件における認容額、訴訟の経過等を斟酌すると弁護士費用は二〇〇万円が相当である。

8  損害合計 二九六二万〇三四七円

したがつて、損害合計は、前記6の二七六二万〇三四七円に、前記7の二〇〇万円を加算した二九六二万〇三四七円になる。

三  結論

よつて、原告の請求は、〈1〉被告北田栄子及び被告古川喜八郎に対し、各自金二九六二万〇三四七円及び内金二七六二万〇三四七円(弁護士費用を除いた損害)に対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払、〈2〉被告山武郡市農業協同組合に対し、原告の被告北田栄子及び被告古川喜八郎に対する判決が確定したときは、原告に対し、金二九六二万〇三四七円及び内金二七六二万〇三四七円(弁護士費用を除いた損害)に対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原洋三)

事故状況調査書(事故発生状況図)Ⅱ

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例